『 多忙につき ― (3) ― 』
ぱたぱた ぱた ぺたぺたぺた −−−
きゃは〜〜 えへへへ 〜〜〜
甲高い笑い声と一緒に チビ共はバス・ルームから駆けだした。
「 あ! こら〜〜〜〜 ちゃんとふかないとダメだあ〜〜
ってか ぱんつ はけ〜〜〜〜〜 」
ジョーの奮戦も虚しく ヤツらはするり、と父のバスタオルから
抜けだしてしまったのだ。
「 ・・・ もう〜〜〜〜 ・・・
まあ ・・・ 風邪ひく季節じゃないから いいけど ・・・
ふは〜〜〜〜〜〜 こりゃ 完敗だなあ 」
自分自身もびしょ濡れのまま ― 彼はふか〜〜〜いため息をついた。
一人で双子のチビ共を風呂に入れるのは ― 至難のワザだった。
晩御飯作りを手伝ってくれたり 案外聞き分けのいい様子に
ちょっとばかり油断した のかもしれない。
「 ・・・ あ〜〜〜 やっぱアイツら、ただのガキんちょだ・・・ 」
ジョーは深い ふか〜〜い溜息をつき、のろくさバスタオルで
自分の身体を拭った。
「 ちゃんと話せば 言うコト、聞くって思ったのが 敗因だな
だいたいちゃんと洗ったのか??
お風呂 ひとりであらえる〜〜って威張ってたけど
二人で水遊びしただけじゃないか〜〜〜〜
・・・ くそう〜〜〜 安易に信じたのが甘かった! 」
バサ −− 彼はバスタオルを洗濯籠に放り込んだ。
はあ ・・・・
なんか湯当たりした かも・・・
! しっかし!
毎日 フラン、 アイツらを風呂に入れてるのか?
一人で ・・・?
あ 博士が手伝ってる か・・・
しかし それにしても なあ〜〜
すごいよぉ〜〜 お母さんってば・・・
なんとかパジャマに袖を通し ( パンツも履いて! )リビングに向かったが
廊下には 点々と小さな水溜りが続いていた。
「 ・・・ あちゃ〜〜 拭いとかないと・・・
あ アイツら ハダカだよなあ パンツは ・・・ 持ってきた。
お〜い すばる〜〜 すぴか〜〜〜 」
ドタバタ バタ −−− かなり本気で走った。
「 すばる すぴか! これ 着ろ〜〜〜 」
ジョーがチビ達のパジャマを持って 覚悟してリビングに入った。
う〜〜〜 〜〜
マッパで 遊び回ってるんだろうなあ
ソファとかあちこち びしょ濡れにして・・・
「 すぴか ! すばる ! ・・・ あ れ ? 」
リビングでは ―
「「 なにか ごよう? おと〜さん 」」
並んでソファに収まり 二組の色違いの瞳がジョーを見上げている。
「 ・・・ え ・・・ あ あ〜〜 ? 」
チビ達は色違いのパジャマを着て 絵本を広げていた。
「 あの ・・・ パジャマ ・・・どこにあったんだい? 」
「 あのね ここにいつも あるの。 」
すぴかが リビングの隅にあるチェストをさした。
「 お風呂のときね ここできるんだ〜 」
すばるも にこにこ・・・ 同じ場所を指す。
「 ・・・ あ そうなんだ? 」
「「 うん 」」
「 あ! パンツ! はいてないだろ!? 」
「 やだ〜〜 ちゃんとはいてるよ〜〜 ね〜〜 すばる? 」
「 ね〜〜 すぴか。 ほら〜〜〜 」
すばるは わざわざパジャマをおろしてみせてくれた。
「 あ・・・? あ ああ そっか・・
あ あのう・・・ いつもそうなのかい? 」
「「 ?? 」」
「 だから そのう〜 いつも風呂のあとはここで
着替えるの? 」
「「 うん 」」
「 そっか・・・ お父さん 知らなかったよ 」
知らなかった。 最近はチビ達と風呂に入ることはなかったから。
チビ達を両手で抱えなくちゃならない頃は
フランソワーズと一緒に お風呂 やっていた。
その頃は 二人じゃなくちゃチビ達の風呂は絶対に無理だったから。
だけど 最近は彼らのお風呂たいむ にはまだ帰宅できていない。
日曜は一緒にお風呂するけれど 彼は二人を座らせ順番に洗いあげ
・・・ あとは脱衣所ではバスタオルを広げ妻が待っていてくれる。
う〜〜〜〜
全然知らなかった ・・・
日曜の風呂は ― ぼくの担当って、半分だなあ
結構 育児した気分になってたけど
・・・ 全然だめじゃん。
ごめん フラン〜〜〜
・・・毎日 大変だよね
ごめん・・・!
ジョーはこころの中で妻に手を合わせた。
「 なあ 二人とも。 お風呂の後はちゃんと身体、
拭かないと ダメだよ 」
「 も〜 かわいた〜〜〜 」
「 かわいた〜 」
「 そういうことじゃなくて だね 」
「 かわいたよ〜〜〜〜 」
すぴかは ぶんぶん〜〜〜 アタマを振ったが
金色の髪から 水滴がぴぴぴ・・・・ と飛んできた。
「 うわ・・・ ほらあ〜 髪 濡れてるよ?
こっちおいで 」
「 ん〜〜〜 ・・・ あ きゃあ〜〜 」
お父さんの膝の上にすわり ごしごしごし〜〜〜 ばすたおる攻撃をうけ
すぴかは もう大喜び・・・
「 こらこら じっとしておいで 髪 かわかすからさ 」
「 ん〜〜〜〜 あはは〜〜 」
「 おと〜さん 」
つんつん。 すばるがパジャマの上着をひっぱる。
「 ん? ああ 次はすばるな〜〜 」
「 あのね おか〜さんね いつも ご〜〜〜〜 だよ 」
「 ご〜〜 ??? 」
「 うん。 ・・・えっと これ〜〜 」
すばるは さっきのチェストの中からドライヤーを
引っ張り出してきた。
「 あ・・・ ここにもドライヤー あったのか 」
「 ご〜〜〜 やって おと〜さん 」
「 よしよし ・・・ すぴか? 乾いたかい 」
「 ん〜〜 あは おと〜さん みたい〜〜〜
くりん くりん くり〜〜ん 」
すぴかは ぐしゃぐしゃになった髪を振り回して喜んでいる。
・・・ おと〜さんみたい ってなんだよ?
これでもちゃんとアレンジしてるんだぜ〜〜〜
父はちょっとばかり傷ついた・・・
あの髪型は 彼なりにかなり気を使って整えている ・・・ らしい。
「 おと〜さん ご〜〜〜 して 」
「 ああ ごめん ・・・ すばる、ほら こっちにおいで。
・・・ あれ? すばる シャンプーしたかい?? 」
「 ・・・ あ〜〜〜 わすれてたア〜〜 」
「 おいおい〜〜〜〜 」
「 僕 あした あらうね〜〜〜 」
「 ・・・ あ ああ そうだね〜〜 ( ひゃあ 可愛い ) 」
満面の笑顔で ― すばるは いとも簡単に父親を陥落させた。
「 うん♪ 」
「 ・・・ う〜〜 なあ いつもリビングでパジャマに着替えるのかい 」
「 ?? ぱじゃま〜 きてる 」
「 ぱじゃま〜〜 ぱじゃぱじゃ ぱじゃまあ〜〜〜 」
わかっているのか いないのか 上手にはぐらかされてしまった・・・
気がしないわけでもない。
チビ達にとって それほどの問題ではないのだろう。
「 う〜〜〜 ・・・ まあ いっか・・・
さあ 二人ともそろそろネンネの時間だね 」
「 おやすみなさい でしょ おと〜さん
ネンネ は 赤ちゃんだよ〜〜 」
「 僕ね 僕ね ひとり でねれる〜〜〜 」
「 アタシだって〜〜〜 ようちえんせい だもん! ひとりでねれる! 」
「「 おやすみなさ〜〜い おと〜さん 」」
チビ達は お父さんにむかってお辞儀をするとわさわさ・・・
手を振っている。
おっとお〜〜〜〜〜
これは フランの躾けか??
ふふ〜〜ん 尊敬されてる?
・・・ なんか昭和のオヤジになった気分だよ
ジョーは 一瞬固まってしまったが すぐに笑顔で腕を広げた。
「 おやすみ〜〜〜 すぴか すばる。
今夜はね〜〜〜〜 お父さんと一緒に寝よう! 」
え ・・・ 今度はチビ達が固まっている。
「 さあ〜〜 一緒にさ 」
「 ・・・ アタシのべっど ・・・ おと〜さん はいる? 」
「 僕のべっど おっきくないんだ おと〜さん 」
「 え?? 」
「 あのね おと〜さん。 アタシ ひとりでねれるよ〜〜 」
「 僕も 僕も〜〜 くまさん いればへいき! 」
「 ・・・ あ〜〜〜 そうなんだ?
あの さ。 でもね ― そのう〜〜〜
お父さんが すぴかとすばると一緒に寝たいんだ。 」
「 おと〜さん が? 」
すぴかの目が またまたまん丸になる。
「 ・・・ おと〜さん ないちゃう? ひとり だと? 」
すばるがなんと涙声になっている。
「 あ〜〜〜 いや ・・・ 泣かないけど・・・
でもね 二人と一緒に寝たいな〜〜 ダメかなあ 」
「「 ・・・・ 」」
チビ共は顔を見合わせていたが ちょっとばかりぎこちなく
返事をした。
・・・ いいよ おと〜さん
「 そっか〜〜〜〜 うわあ〜〜 お父さん ウレシイなあ〜〜 」
ジョーはかなり本気で喜んで我が子たちを一緒くたに抱き上げた。
「 さあ〜〜〜 それじゃ三人で 一緒にねような 」
「「 ・・・ うん ・・・ 」」
一人で盛り上がっていたので 彼はチビ達のちょいと複雑な表情に
まったく気づいていなかった。
バサ −−−− ベッド・カバーをどける。
「 ほうら のっかっていいよ〜〜 」
「「 ・・・ 」」
チビ達は両親の広いベッドの前で たちんぼしている。
「 う〜〜んと お父さん、 真ん中に寝るからあ
二人は こっちと こっち かな 」
ほら おいで・・・と ジョーは ぽんぽん・・・ と
ベッドを叩く。
「 ・・・ アタシぃ〜〜〜 ここ。 」
すぴかが えいやっとベッドによじ登った。
「 僕ぅ〜〜〜〜 」
「 うん すばる? ほうら ・・・ こっちだ 」
「 ・・・わ ・・ 」
ジョーは軽々すばるを ベッドの反対側にのっけた。
「 さあ〜〜〜 お父さんも寝るぞぉ〜〜 」
「「 ・・・・ 」」
チビ達は ごそごそ・・・タオルケットの間に潜ってきた父から
反射的に少し離れた。
「 あれ ほらほら もっとこっちおいで〜〜
ほらほら すぴか・・・ お父さんの脇のとこに枕おくよ?
すばる〜〜〜 おいで くっついていいよ〜 」
「 「 ・・・ う うん ・・・ 」」
ごそ ごそごそ ・・・・ チビ達はやっと寄ってきた。
「 ウン じゃ 今度こそ おやすなさい だね 」
ジョーは夢の、いや 憧れの 親子川の字 で
( 川 じゃなくて 小 の字だけど )もう うきうき〜〜♪
「 すぴか すばる〜〜 せ〜〜の ・・・ 」
「「「 おやすみなさ〜〜い 」」」
ふぁ 〜〜〜〜 くぅ〜〜〜
すぴかは ほぼ < 瞬眠 > だった。
ジョーの側に潜り込むなり く〜く〜〜〜 ・・・ 寝息をたてはじめた。
「 すぴか・・・? ああ もうネンネしちゃったのかあ〜〜〜
うわあ・・・ 寝顔 最高〜〜 僕の天使ちゃん♪ 」
彼は愛娘のまあるいほっぺを そ・・・・っと撫でた。
「 ねえ おと〜さん 」
反対側から の〜んびりした声がした。
「 ん? ああ すばるはまだ寝ないのかな 」
「 うん。 あのね おと〜さん。
けいきゅうのどれみしゃりょう って しってる? 」
「 どれみ・・・? しらないなあ あ おもちゃかい 」
「 うう〜〜ん ホンモノだよ 」
「 そっか〜〜 こんど一緒に見にゆこうか ・・・
さあ すばるもネンネしろよ 」
「 うん ・・・ 」
ぽんぽん と軽くタオルケットを叩けば すばるはちゃんと目を閉じる。
「 ・・・ そうそう おやすみ〜〜 ・・・ ふぁ〜〜〜〜 」
本日の奮戦で ジョーも眠気がどっと襲ってきて・・・自然に瞼が・・・
「 ねえ おと〜さん 」
機嫌のよい の〜んびりした声が また彼を呼ぶ。
「 ・・ う ・・・? ああ すばる 」
「 あのね ぼくね けいきゅうのあかいしゃりょう、すき 」
「 ・・・あ ああ そうだねえ・・・ 」
「 どれみしゃりょう のりたかったなあ 」
「 そっか 次の日曜にのりにゆこうな 」
「 うん!! ど〜れみふぁそらし〜〜〜 ってねえ 」
「 ・・・ うん さあ 寝ような 」
「 うん ・・・ 」
「 すばる〜〜は でんしゃがすき〜〜 ♪ 」
「 ・・・ えへ ・・・ 」
ジョーの珍妙な即興歌をききつつ すばるはすう〜〜っと目を閉じた。
やれやれ・・・ ほっとするとジョー自身も瞼がくっつきそうになり・・・
「 ねえ おと〜さん 」
柔らかいトーンの声が彼を呼ぶ。
「 ・・・ う ・・・? な なんだい 」
「 あのね あしたね ぎうにうにおさとう いれていい? 」
「 ・・・ あ〜 ? ・・・ いいよ
すばる、ぎうにう じゃなくて ぎゅうにゅう だよ 」
「 ふうん ・・・ おか〜さん ねえ ぎゅ〜にう には
おさとう だめって 」
「 そうなのかい ? じゃあ 明日 考えような 」
「 うん あした ね 」
「 ・・・ ああ さあ すばるもネンネしようなあ 」
「 ん〜〜 ぼくね あまいぎうにう すき〜〜〜 」
「 そっか・・・ 明日 な ・・・ 」
「 うん おやすみ〜〜 おと〜さん 」
「 ああ お休み、すばる ・・・ 」
ぽん・・・と 自分と同じ色のアタマに手を当てると
優しい茶色の瞳は ゆっくり閉じた。
ふう・・・ ジョーもとろ〜〜んと夢の国 へ・・・
「 ねえ おと〜さん 」
ジョーが とろとろし始めると 隣からにこにこ・・・
声がやってくるのだ。
「 あのねえ 僕ね〜 」
「 ・・・ あ ・・・ あ? 」
「 あのねえ ようちえんでねえ 」
「 ・・・ そっか ・・・ ( くう ・・ ) 」
「 ねえ おと〜さん 」
う〜〜〜〜〜〜 ・・・・
ね 寝かせてくれえ〜〜〜
またウトウトしかけると すばるがこそ・・・っと話かけてくる。
「 ねえ おと〜さん 」
「 ・・・ な なに ・・・・ 」
「 あのねえ 僕ね ぎうにうぜり すき〜〜 」
「 ・・・ ああ そうだね お父さんも好きだよ 」
「 うん ・・・ 僕ね 僕ね ・・・ ひみつなんだけど 」
「 ・・・ うん? な に・・・ 」
「 うふ ・・ 僕ね おか〜さん だいすき♪ 」
「 ・・あ? そうだねえ ・・・ おと〜さんも だいすき さ 」
「 そんでもってね〜 僕 おか〜さんとけっこんするんだ〜 」
「 ・・・ そ うか ・・・ よかったなあ ・・・ 」
ジョーは 半ば無意識に このちっこいライバルの肩を抱いた。
「 ・・・ ねえ ・・・ おと〜 さん ・・・ 」
「 ・・・ あ ああ ? なんだ い 」
「 ・・・・・・ 」
最後は どうも寝言だったらしい。
ベッドに入ってもすぐには眠れないすばる、でも 不機嫌になるわけでもない。
自分の状態をよくわかっていて しばらくおしゃべりしたり空想の世界で
遊んだりしてから ゆっくりと眠るらしい。
だ け ど。 いちいち相手をしていたらたまったものでは ない。
! そっか・・・
フランってば チビ達と同じベッドで寝ないもんなあ・・・
知ってたんだ? コイツらのこと・・・
う〜〜〜む・・・ 母親には負けるなあ
は〜〜〜〜 〜〜〜〜 ま とにかく
やっと寝てくれたか ・・・ !
ほっとして少し身体の向きを変えた ― 途端に。
ぐわんっ!!
009は背中に 激しい衝撃を受けた!
「 !!! な な なんだ !?? 」
完全に無防備で油断していたので まともに受けてしまった。
いかに009であろうとも これはかなりのダメージだ。
くう 〜〜〜〜〜 ・・・・ !
敵襲か?? と 無理矢理身を起こせば ―
となりには ちっこいあんよ。
「 !! え ・・・ す すぴか か??? 」
衝撃の一発 は 熟睡してるすぴかの 蹴り だったのだ。
ひえ〜〜〜〜〜 ・・・・
すごいな・・・ おい
すぴかは寝ながらにして 天下の! サイボーグ009 を
驚愕せしめたのである。
いて ・・・ こりゃ 青タン必須だなあ
・・・ 博士が帰ってきたら
念のため メンテナンス 頼もう
ジョーは背中を気にしつつ でももうめちゃくちゃに眠かったので
そのまま 寝落ちしてしまった。
もぞもぞもぞ ・・・ 右脇の下が蠢いている。
ごそごそごそ ・・・ 身体の左側からタオル・ケットが消えた。
「 ・・・ う ・・・・? 」
ジョーは ぼ〜〜〜んやり うす〜〜〜く目を開けようかなあ〜〜〜と
思って でも まだアラームは鳴ってないしいっか〜〜〜 と
もう一度 目を閉じようと ― したその瞬間。
「 おっはよ〜〜〜〜〜〜 おと〜さん すばる〜〜〜〜 」
元気いっぱい甲高い声が響きわたった。
う ・・・?
同時にタオルケットは完全に消え ― ここで彼ははっと覚醒し
( さすが 009 ) いっせ〜のせっ で自分に
ダイブしてくるすぴかを 抱き留めた。
「 ・・・ す すぴか 」
「 きゃっほ〜〜〜 おはよ〜〜〜〜 おと〜さ〜〜〜ん 」
「 お おはよ・・・ もう起きたのかい 」
「 うん♪ おと〜さん もおきた?
」
「 ああ。 完全に目が覚めたよ ・・・・
( ひえ〜〜〜 眠っていて まともに腹にダイブされたら・・・) 」
ジョーは ぞっとした。
「 すぴか。 あのさ おはようって言ってから 跳んできてくれよ 」
「 あは? アタシ しっかりおきてるも〜〜ん 」
「 だから さ ・・・ あ すばるは? 」
「 ん? すばるはね〜〜 ゆっくりおきるの。 」
「 ふうん ・・・ 」
そっと 右側を見れば ジョーの息子は く〜〜く〜〜〜〜・・・・
寝息をたてている。
「 ありゃ 本当だ まあ いっか ゆっくり寝かせてとこう。
じゃ すぴか〜〜 顔、 洗いにいこ! 」
「 うん!! 」
お留守番 二日目は実にいい感じで始まった ―
ふふふ ・・・ いいじゃん?
この調子で行けば 楽勝だな〜〜
フラン〜〜〜
ウチのことはぼくに任せて
しっかり踊ってくるんだよ
さあ チビ共〜〜
お父さんと楽しい休日だ♪
ま〜〜ずは 美味しい朝ご飯☆
「 すぴか〜〜 お父さん 朝ご飯、作ってくるから。
お願いがあるんだけどなあ 」
「 なあに おと〜さん 」
「 裏庭の野菜畑にね お水を上げてくれるかな〜〜
お父さん キッチンの窓から見てるから 」
「 うん! アタシ〜〜 おみず、あげるの、じょうずなんだよ〜〜 」
「 そうなんだ? すごいなあ ・・・
あ お父さんがね 大きなバケツにお水を汲んでおくから
すぴかは如雨露で しゃわ〜〜〜〜 って ・・・ できるかい 」
「 できる!!! すぴか じょ〜ろ すき(^^♪ 」
「 そっか〜〜 あ 服が濡れてもいいからね 」
「 うん! あついから かわくよね〜〜 」
「 うん うん ・・・ さあ 一緒に裏庭に行こう。
び〜さん、履いておいで。 」
「 はあ〜〜〜い 」
すぴかは玄関にすっとんで行った。
「 ふふふ 本当に元気のカタマリだなあ・・・
ま びっしょびしょになっていいさ 着替えて朝ご飯 さ 」
ジョーは でっかいバケツに水を満々・・・ 裏庭に出た。
「 おと〜〜さ〜〜〜〜ん !! おみず〜〜〜〜 」
「 ここだよ〜〜 はい 如雨露。 」
「 うん! はたけ い〜〜っぱい じゃばじゃばするの? 」
「 そうだね〜〜 トマトにナスさん達に 朝ご飯 をあげてくれ 」
「 うん! 」
すぴかは 赤い如雨露にお水を入れて畑に駆けていった。
ほ・・・っんとに元気だなあ〜〜〜
朝ご飯 たっくさん食べるだろうなあ
さあ こっちは飯づくり だ!
ジョーは うきうき・・・ キッチンに立った。
「 さあ 卵焼だ! ふっふっふ〜〜〜〜
この日のために 鍛錬に励んだぞ!
大人に御指南ねがったし これも密かに購入しました♪ 」
じゃ〜ん ・・・ と 彼は四角い、卵焼き専用のフライパン?を
取り出した。
「 これこれ・・・ 日本古来の伝統的な! 卵焼 を作るぞ〜〜
ちゃんと練習したんだ。 菜箸でさ こう〜〜 くるくる・・・ってね。
チビ達 びっくりするかもなあ〜
< お父さんの卵焼きがいい > なんて言い出すぜ きっと(^^♪
へっへっへ〜〜〜 」
彼は 慎重に卵をチェックし 四個、取りだした。
「 うん・・・ 出汁巻き は あまり子供向きではないからな・・・
伝統的な お弁当の卵焼き にするぞ。
ちょこっとは砂糖を入れるか・・・ すばるが喜ぶよな〜〜〜 」
カチャ カチャ カチャ
卵を割り菜箸で慎重に攪拌する。
「 泡をたてない ・・・っと。 白身と黄身をよ〜〜く混ぜてっと。
味付けは 塩と砂糖少々・・・。
あ〜〜 付け合わせは 浅漬けキュウリ! これ 美味いんだよなあ〜〜
あと・・・ お ミニ・トマト があるな〜〜 よしよし ・・・ 」
自信満々 余裕の笑みで お父さんの朝ご飯 の献立は出来上がった。
「 さあ これで鍋 ( 四角いフライパン ) に油をなじませ〜〜
・・・うん? 」
きゃ〜〜〜 あはは えへへへ わあ〜〜〜
裏庭が急に賑やかになった。
「 なんだ?? すぴかってば一人で盛り上がっているのかあ? 」
・・・ あ !!!
ひょい、とキッチンの窓から裏庭を眺め 次の瞬間
( とにかくガスを止め ) 心の中で かそくそ〜〜〜ち!!!
と唱え 裏庭にすっとんで行った。
裏庭の野菜畑では びしょ濡れのすぴかと パジャマ姿のすばるが
ひらひら きゃらきゃら〜〜 走り回っていた。
「 すぴか〜〜〜 お水あそび じゃないぞう〜〜
すばる〜〜 パジャマは着替えないと〜〜〜 」
「 あははは〜〜〜 あ おと〜さ〜〜ん
ね ね じょ〜ろでね〜〜 しゃわ〜〜〜〜〜〜 なのぉ 」
すぴかはもう全身 ずぶ濡れで如雨露を振りまわす。
「 えへへへ ・・・ おと〜さ〜ん 僕ね しゃわ〜〜〜してるの。
きもちいい〜〜〜 」
パジャマのままのすばるも 全身げでげでだ。
「 すぴか ・・・ なあ 畑の野菜さんには 」
「 おみず あげたよ〜〜〜〜 そんでね すばるがきたの 」
「 すばる? いつ起きたのかい 」
「 ん〜〜〜 すぴかがよんだ〜〜〜 あはは きもちい〜〜〜 」
チビ共は もう最高にご機嫌ちゃんなのだ。
ううう〜〜〜〜 コイツらア〜〜
・・・ 放っておいたら
裏庭中 げでげでで駆けまわるぞ
― 冗談じゃあないよ。
これから 朝ご飯 なんだから。
がし。 がし。 ジョーはチビ達を抱き上げた。
「 わきゃ?? おと〜さ〜〜ん 」
「 おと〜さ〜〜ん わあい〜〜〜 」
「 二人とも。 さあ 着替えて朝ご飯! 」
「「 え〜〜〜〜 」」
問答無用、と父は双子を抱えてバス・ルームに直行した。
洗濯モノ 第二弾 だ っ!
― 30分後。
洗いあげられ さっぱり着替えて 双子は神妙な顔で
キッチンにいた。
「 さあ。 お父さんはこれからご飯を仕上げるから。
二人はちゃんと座っていること。 できるね? 」
「「 うん 」」
お父さんの いつになく真面目な顔と声に
すぴかもすばるも こくん、と頷いた。
「 よし。 じゃあ すぐに出来るからね。 ここで待つ。 」
「「 うん 」」
・・・ ジョーはすご〜〜い真剣に神経を研ぎ澄まし ・・・
卵焼きを作った。
ジュワ 〜〜〜〜〜
・・・ 卵は従順にジョーの菜箸に従ってくれた。
チビ達は 自分の椅子に座り大人しく待っていた。
「 さあ 二人とも。 ちゃんと待てたね 」
「「 うん 」」
「 よおし それじゃ朝ご飯にしよう 」
「「 うん 」」
コトン コトン
二人の前にいつものお皿が置かれた。
「 はいよ〜〜〜 卵焼きだ 召し上がれ。」
チビ達は じ〜〜〜〜っとお皿を眺めている。
「 ・・・ これ なに。 」
「 なに・・・って 毎朝のたまごやきだよ? 」
「 ・・・ おむれつ? 」
「 ん〜〜〜 っていうか 卵焼 さ。 美味しいよ 」
「 ・・・ ふうん ・・・? 」
すぴかはお箸でつんつんしてから 端っこ千切り口に入れた。
それを見てから すばるも丁寧にお箸で分けて一切れ食べた。
「 ・・・な? 美味しだろ? お父さんの自慢の 」
「 アタシ。 おか〜さんのが いい 」
「 これ・・・ あまくない 」
チビ達は無慈悲で正直な感想を述べる。
「 そっかなあ〜〜 これはなあ お父さんの卵焼きだから さ
お母さんのとは違うんだよ 」
「 ・・・ おと〜さん おしょうゆ、かけて 」
「 僕 おさとう!! 」
「 そっか ・・・ すぴか ほら 自分でかけなさい。
すばる お砂糖はダメだなあ ハチミツにしよう 」
「「 ・・・ うん 」」
結局 すぴかはじゃぶじゃぶに醤油をかけ
( ・・・ これあじゃ 醤油漬け じゃないか〜〜 )
すばるはハチミツだけじゃなくてパンに塗るマーマレードもなすりつけ
( ほ・・・っんとに 甘党 なんだなあ )
なんとか食べ終わった。
卵焼きと付け合わせのミニ・トマトを齧りいつもの通りトーストも一枚平らげた。
浅漬けキュウリ は みごとにシカトされてしまった。
「「 ごちそうさま 」」
ちゃんと手を合わせてから すぴかは椅子から滑り下りた。
「 はい。 あ すぴか まだお外はだめだよ 」
「 ・・・ うん ・・・リビングにいる 」
「 よし。 すばる? ほら もうちょっとだから食べちゃおう 」
「 ・・・もう いい。 」
すばるはカップを置いて 椅子の上でもじもじしている。
「 あ お腹いっぱいかい? 」
「 ・・・ ぎうにう あまくないんだもん 」
「 朝の牛乳は お砂糖ナシだよ? お母さんだってそうだろう 」
「 ・・・ いつもは ジャム いれるの 」
「 え 牛乳にジャム?? 」
「 うん。 あまくておいしいよ〜〜 」
「 う〜〜 ともかく今朝は 甘いのはなし。
じゃ リビングで待ってて。 お父さん 後片付けするから 」
「 ・・・ 僕 おてつだい する すぴかぁ〜〜〜〜 」
「 なに すばる 」
あっという間に すぴかが戻ってきた。
「 おと〜さんのおてつだい。 いっしょにしよ? 」
「 いいよ〜〜 おと〜さん ふきふき? 」
「 え〜っと ・・・ あ ・・・
うん まずは二人 ここに座ってくれるかい 」
ジョーはチビ達をちらっと見て すぐに気付いた。
・・・ ははあ 眠いんだな?
ま ね。
朝っぱらから 水撒きで大騒ぎして
お腹いっぱいになれば〜〜
眠くなるのは自然の理 ってやつさ
「「 いいよ 」」
「 ちょっと待ってて ・・・ 」
ジョーは ( かそくそ〜〜ち と密かに呟き ) 超手早く食器を洗った。
「 ・・・っと よし・・ っと。
さあ すぴか すばる〜〜〜 ・・・ あは 」
振り返れば ―
食卓にもたれて二人は く〜く〜〜 < 朝寝 > していた。
「 あは ・・・ まあ ゆっくり寝ておいで 」
ジョーは そうっと そうっと チビ達をリビングのソファに
運んだ。
フラン〜〜〜〜〜 ・・・
ごめん。 ホントに ごめん。
ぼく 全然子育てに参加できてなかったよなあ
こんなに大変なのに ・・・!
― ようし。 今から育児主任 だ!
― さて 時間は少し先になりまして。
こちらは 旅公演先のフランソワーズさん、ホテルの小部屋。
公演二日目の夜、たまらずウチに電話して 大泣きし。
そして 気持ちよ〜〜〜く熟睡したはずが ぽっかり目が覚めた。
・・・ あ ・・・ ?
時計を見ても まだまだ真夜中。
「 ・・・ あら この時間って ・・・
チビ達のミルクタイム だった時間だわ 」
もう すっかり忘れていたのに ふと・・・ 数年前の習慣が蘇った。
あの頃はもう無我夢中だったっけ。
「 ふふふ ・・・ 夜中に起きる なんてできっこないって
思ってたけど あの頃は習慣になってたわねえ 」
不意に 赤ちゃん時代のすぴかとすばるの感触を思い出した。
「 ごくごく・・・すごい勢いで飲むのよね すぴかって。
すばるは の〜〜んびりゆっくり でも いつまで〜〜も
飲んでたっけ・・・ 」
甘い乳児の匂いまで 鼻先に感じてきた。
「 ・・・ ふふふ ・・・ 今 思えば可愛い過ぎの時代よねえ
あ〜〜 さっきの画像 可愛いかったなあ ・・・
なんか ・・・ 泣いたらすっきりしちゃった 」
もう ウチは 二人で十分 と思ってたけど。
もしかして ・・・ もう一人くらい
いてもいい かも・・・
ジョーはとても子供が好きで、というより < 家族 > が好きで
次の子を欲しいと思っているのは ずっと前から知っている。
彼は いい父親で子育てに共に参戦してくれているし
彼女の仕事にも理解がある。
ワン・オペ育児 には絶対にならない とは思う。
でも ・・・ あのう ・・・
もう いいかなあ って わたし、思ってて
二人いればいい と思っていたの。
でも ・・・。
ジョーが望むなら。 彼が幸せになるのなら。
これは もう一回 ちゃんと相談しなくちゃ・・・ と
彼女はふか〜〜く頷いた。
そうよ。 ウチのことは二人で決めなくちゃ ね
さあ〜〜〜 とりあえず
明日の千秋楽〜〜〜 がんばるわ!!!
フランソワーズは とてもとても幸せな気分で
再び 眠りに落ちて行った。
Last updated : 08.02.2022.
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******** 途中ですが
どんな仕事 でも 楽しいだけ なんて ないですよね〜〜〜〜